黄色




朝。
卒論の準備で、図書館で資料を探していたとき、
ふと顔を上げて窓の外を見たら、遠くに、あの人がいた。


私の中では、あの人は友達と楽しそうに話しているか、もしくはすごく―――不機嫌か。
そんなイメージがあったんだけど、そのときのあの人は一人で歩いていて、やけに眠そうに何度もあくびをしていた。
いかにも、かったるそうに歩きながら、キャンパスを横切って行く。


前に誰かから聞いたことがある。
あの人は「走り屋」で、夜中に赤城に行って走っているらしいって。
私はそう言う世界はよく分からないけれど、確かに、すごい車だもんな、と思い出した。
凄く丁寧で、綺麗な運転だった。


今朝も、その帰りなんだろうか。
その眠そうな姿を目で追いながら、そんなことを思う。


大学四年になって、殆ど大学に来ることもなくなった。
今みたいに卒論の準備の為とか、去年入っていたゼミにちょっと顔を出すとか、それくらい。
そう言うとき、何となく駐車場の方を回って帰るのだけど、必ずと言っていいほど、その車はあった。
黄色の、眩しい車。


あの車を見ると、いつも、あの最後の彼の笑みを思い出す。
そのたびに、どこかが、痛む。
楽しい思い出―――なんかじゃ、たぶん、ない。


でも痛みと一緒に少しだけ、元気ももらえるのだ。
面接で辛辣なことを言われてヘコたれても、頑張らなきゃって自分を奮い立たせることが出来る。
不思議。まるで、彼自身のよう。


ごめんね。
あのタオル、実はまだ、捨ててないんだ。


通り過ぎていく彼の横顔を眺めながら、心の中で呟く。
もちろん、そんなものはあの人に届かないだろうけど。


私はちゃんと成長してるかな。
あの人は―――前に進んでるのかな。


秋の真っ青な空に、彼の髪がきらきら反射して。
ちょっと眩しい。