まち
昔、かくれんぼが好きだった。
うちは無駄にでかいから、隠れるところには困らない。
ましてやガキのうちなんて、今以上に家がでかく見えて。
お城か何かのような感覚で。
「啓介?」
アニキの声。
近くでその声が聞こえるとドキドキする。
じーっと物陰に身を潜めて、ぎゅっと体を固くして。
ああ・・・そのまま見つけないで通り過ぎてくれ。
力いっぱい目を閉じて、その足音が過ぎるのを待つ。
でも、本当に行ってしまうと、ちょっと寂しかったりするんだ。
何だよ、俺はここだよ、見つけてくれよ。
遠ざかっていくそのアニキの声に向かって、そんなことを心の中で呟く。
勝手なもんだ。
「―――啓介?どこ?」
次にの声が聞こえてくる。
あいつ、また先に見つかってるよ。
思わず呆れて口元が緩んじまう。
いつもそう。
あいつが先にアニキに見つかる。
アニキは、ああ完璧に見えて、実はじゃんけんは弱い。
だからいつも鬼になるのはアニキで、俺とが隠れる。
で、あいつの方が頭はいいのに、先に見つかっちまう。
いつも俺の勝ち。
今思うと―――たぶん、あいつとアニキの思考回路って似てるから、読まれちまってたんだろう。
その点、俺はアニキとタイプが違う。
だからアニキの予想もしなかったところに隠れて、意表をつく。
「どこ行っちゃったんだろう。」
「さあ・・・あいつのパターンってときどき読めないんだよな。」
アニキとが喋ってる。
本当に困ったって声を出して、ため息をついて。
それを聞いていると、すごく寂しくなる。
早く見つけてよ。
そう思いながら、じわりと浮かんできた涙を堪える。
最初に隠れるときの興奮なんかどこかに行っちゃって。
寂しくて、寂しくて、仕方なくなる。
でも俺も強情だから、自分からは出ていけなくて。
アニキのばか!
そんな理不尽なことを心の中で叫んだりする。
ぎゅ、と目を瞑って膝を抱えて小さくなる。
涙を堪えきれなくなったとき―――
「―――見つけた。」
―――いつも、そうやって背後から声がする。
アニキと。
の。
恐る恐る、後ろを振り返れば。
やっと安心したような笑みを浮かべていると、ちょっと呆れたようなアニキの顔。
その手は、繋がれていて。
俺はちょっと寂しくて―――嬉しい。
「相変わらず変なところに隠れやがって。」
「そんなことねぇよ。」
俺はほっとして、慌てて涙を服の袖で拭い、してやったり、みたいな笑顔を二人に向ける。
俺が不安になっていたことなんて、二人にはお見通しなんだけど。
「―――ほら。」
アニキが手を差し伸べる。
俺はその手を引っ張って、一緒にの手も無理やり引っ張って立ち上がる。
が俺の方によろけて、アニキがそれを支えて。
三人で笑う。
俺は、かくれんぼが、好きだ。