アンケートお礼 (2008年11月)




クリスマスソングの流れる駅前の通りで、と啓介はお互い驚いたような照れたような顔をして見あった。


「よう」
「……どうも」


二人がこんな場所で会うなんて珍しい。
は大学まで電車とバスで通っているので駅前を歩いていることなど珍しくないが、夕方のこの時間帯は大概バイトだったりして大学に近い方の駅にいたりする。


「大学の帰りか?」
「はい。啓介さんも?」
「ああ。ちょっと、すっげぇ甘いコーヒーが飲みたくなってさ」
「甘いコーヒー?」
「ジンジャーブレッド・ラテとか、そう言うヤツ」
「……ああ、なるほど」
「お前も来る?」
「いいですね」


は啓介に並んで、さっき来た道を逆戻り。
コーヒーショップへと入って行く。
今日はたまたまバイトのシフトを入れるのを忘れてしまっていて、ちょっと時間を持て余したのだ。


「何だか、啓介さんとこう言うお店入るのって新鮮ですね」


照明を落とした、茶色基調の店内。
コーヒーの香りに満たされた空間には、時間帯のせいか、自分たちより少し上の年齢の人たちが多い。


「お前とはファミレスか牛丼屋か、焼肉屋しか行かねぇもんな」
「たまには来るんですか?」
「ホントにたまーにな。普通のコーヒーは、アニキの淹れる方が美味いし」


カウンターの上に掲げられているメニューを見上げながら、ブラコンぶりを発揮する啓介。
まあ事実だもんな。
も心の中で同意して頷く。


「お前何にする?」
「えーと、あそこに絵が描いてあるヤツにします」
「……お前、適当に言ってるだろ」
「そんなことないです」
「……まあいいや。先にどっか座ってろ」


しっしと払うような手つきの啓介に、はちょっとだけ不満そうに口を尖らせたが大人しくその言葉に従った。
奥にソファ席が空いているのを見つけ、何となく落ち着かない感じで座る。
涼介との待ち合わせによく使う店だし、別に緊張する理由などないはずなのだが、何となくいつもと違う気がしてしまう。
抱えていた鞄を自分の後ろに置き、はぁと息を吐いた。


「―――何だか、借りてきた猫みたいだな」


トレーを持って現れた啓介が、ソファにチョコンと座るの様子を見て可笑しそうに笑う。


「啓介さんがそんな言葉を使うなんて意外です」
「馬鹿にしてんのか」


照れ隠しに言ったの憎まれ口に、啓介はジロリ。
でもすぐ笑顔に戻って、テーブルにトレーを置いた。
そこには、啓介の頼んだジンジャーブレッド・ラテと、よく分からないまま選んだのダークチェリー・モカと、星型のケーキが一つ。


「啓介さん、そんなすっげぇ甘いコーヒーと一緒にケーキですか?」
「お前だよ、お前!お前が食うの!」
「えっ?」
「お前、この前誕生日だったんだって?そう言うことはちゃんと言っておけよな!」


そう言って、啓介は向かいのソファにドカリ、腰を下ろす。
足を組んで大げさなくらい偉そうな態度の啓介と、そのケーキを交互に見る


「あの……ありがとう、ございます」
「ハタチになったって?今度酒飲みに行こうな!」
「皆同じこと言いますね」
「ハタチって言ったら、酒か煙草か女だろ」
「最後の一つは違うと思います」
「そうだっけ?」


そっぽを向いてマグカップを手に取る啓介に、チロリと抗議の目を向けながらはケーキを一欠片、口に運ぶ。


「美味しい。……けど、甘い……」


そう言いながら、今度はマグカップに口をつける。
そしてその直後、皺のよる眉間。


「……もっと甘い」
「ま、クリスマスのメニューってのはそう言うもんだろ」
「ク、クリスマスが関係あるんですか……」
「俺の飲む?」
「すっげぇ甘いんですよね」
「お前のより甘くないんじゃねぇ?」
「……」


ニヤリと意地悪く笑ってマグカップを差し出してくる啓介。
この組み合わせはわざとか。
はそのカップを受け取り、一気飲み。


「あっ!てめ……っ!!」
「代わりにこっち上げます」
「くっそ、ガキみたいなことしやがってっ」


毒づく啓介に、は「してやったり」みたいな小憎らしい笑顔。


「ハタチになっても、大人の女には程遠いな!」
「その台詞、そっくりそのまま啓介さんにお返しします」


今年は本当に、特別なことばっかりだ。
甘い甘いケーキをまた一欠片すくいながら、は綻ぶ口元を押さえた。