じかん




久しぶりに重なったと涼介の休日。
どこかへ出かけることも考えたが、せっかくだから二人だけでゆっくりしたい、とが涼介の家へ来ることになった。
両親は学会に出席するため昨日から都内のホテルに泊まっているし、啓介も、今日は一日中用事があっていないと言っていた。
が簡単な昼食を作り、涼介が食後のコーヒーを入れる。
そして二人で片づけを済ませ、暖かい日の光の差し込むリビングへと移る。
お互い、何かしていないと落ち着かない性分で、いつもならDVDを見たり本を読みながら批評しあったり。けれど、今日は敢えて何もしないことにしよう、と先にソファに腰掛けた涼介が、の手を掴んで引き寄せた。

「たまには時間を贅沢に使うのもいいよな。」
「何もしないで?」
「そう。」

隣りに座ったの膝をするりと撫でた涼介は、そのままその上に自分の頭を乗せた。
食後にこんなふうに横になる涼介も珍しければ、膝枕を求めるのも珍しい。あまり目に見える形で甘えてくることをしない人だ。はちょっと目を見開いて、自分の下にある涼介の顔を見下ろす。

「いやか?」
「そんなことはないけど・・・何か、照れる。」

少し困ったような、戸惑ったような顔は、少し赤い。涼介はそれを見上げてくすりと笑い、彼女の方に体の向きを変え、片方の腕を彼女の腰に回した。自分の足から伝わってくる涼介の重みと熱と、そしてその腕の温かさに、ほっとして嬉しくなるのと同時に、やはりどこか落ち着かない。その感覚が涼介にも伝わってきて、思わず、笑い出しそうになる。

「どうした?別に膝枕くらい初めてじゃないだろ?」
「そうなんだけど。」

でも、こんな明るい午後に昼下がりに二人きりでいること自体、滅多にないことで。
幸福を感じるのと同時に、僅かな罪悪感のようなもの。
でも、そんな困ったを見るのも楽しいらしく、涼介の方はクスクスと笑ったまま、気にせず目を閉じる。
意地悪な人だ。
鼻でもつまんでやろうかと手を伸ばしかけたけれど、やっぱりその勇気はなくて、代わりにサラリとその黒い髪を撫でた。
サラサラとしたその感触と、微かな熱に、もだんだんと落ち着いてきて、何度も、ゆっくりと、指で梳く。

暫くの間、まるで犬か猫のように気持ちよさそうにして、されるがままだった涼介が、不意にの手を掴んだ。
彼女が驚く間もなく、それをそのまま自分の口元まで持っていく。
その様子をじっと見守るだけだっただが、その次の、涼介の唇の感触に、思わずびっくりして手を引っ込めようとした。
が、涼介がそれを許すはずもない。
別に、膝枕と同様、指にキスされたことぐらい何度もあるはずだった。
でも、今改めてその唇の柔らかさと、暖かさと、気持ちよさに、驚かされる。

涼介の方も、のその指の感触が気に入ったのか、再び口づける。
中指、薬指、小指―――人差し指に親指と、一本一本、ゆっくりと、唇で撫でるように触れた。
それがくすぐったくて―――同時に、また、小さな罪悪感を湧き上がらせる。
もっと触れて欲しいと思う。やめないで欲しいと思う。

その彼女の気持ちを読んだかのように、涼介もまた繰り返す。
手の甲から唇を滑らせ、指先へ。ゆっくりと。
そして再び、今度は舌で辿る。
その慣れない感触に彼女は体をピクリと動かしたけれど、涼介は全く気にせずに続けて、指を、口に含んだ。
一本一本、隈なく、味わい尽くすように。
目を閉じたまま、赤い舌だけが、見える。

休日の昼下がり。
明るいリビングのソファ。
そこで、ただ手の指を舐められているだけなのに、その舌の柔らかさと、ざらりとした感触と、熱さとに、はどんどんおかしくなって行く。
神経が、指先に集中していく。
そして、その神経を一つ一つ確かめるように、ゆっくり、執拗に、涼介は舌を這わせた。
顔だけじゃなく、体中が熱くなってきて、敏感になってきて

「―――んっ。」

思わず声が漏れて、慌ててもう片方の手で自分の口を押さえた。

「―――どうした?」

分かっているくせに、涼介は意地悪く笑って見上げる。
ジロリと、は睨んだけど、それは全く迫力がなくて。いや、寧ろ煽るものでしかなくて。
ゆっくりと身を起こす涼介も、やっぱり、熱い。

「悪い―――やっぱり何もしないなんて無理そうだ。」