渉の唇が好き。
ちょっと厚めで、柔らかくて、すごく気持ちがいい。


あと耳も好き。
実は結構大きくて綺麗な形をしている。


胸もね、やっぱり好き。
別に何かで鍛えたりしているわけでもないはずなんだけど、ちゃんと引き締まってて、目の前にあるとちょっとドキドキする。


腕も、太すぎず、細すぎず、綺麗に筋肉がついていて。
その腕で抱きしめられたりすると、それだけで―――。


「・・・おい、くすぐったい。」
「そう?」


唇、耳、そしてだんだんと下へと滑り降りていく私の指に、渉は擽ったそうに身を捩る。
その様子が面白くて、私はついつい調子に乗ってエスカレート。
そうしたら渉は不機嫌そうに、ふいと私に背を向けてしまった。


もう。すぐに怒るんだから。
私はその背中に抱きついた。


「そう言えば、この前、また秋名に行ったんでしょう?」
「ん、ああ。」
「ふーん。妬けちゃうなぁ。」


渉は「ばか」がつくくらいの車好き。
どうやら「秋名のハチロク」と言う、とても速い車のドライバーに惚れ込んでしまったらしく、最近よく彼に会いに行く。
まあ、一時間くらいで行けてしまう距離だから、大したことないのかもしれないけれど。
いつも「金欠だ」って言っている渉には、ガソリン代も馬鹿にならないんじゃない?
私は彼の肩に顎を乗せ、にやりと笑う。


「惚れてんの?」
「ばか言ってるな。」
「ふぅん。じゃあ、私が秋名の方に住んでたら、やっぱり同じように会いに来てくれる?」
「ばかか、おまえは。」


呆れたようにため息をついて、私の頭を軽く叩く渉。
そんなの当たり前だろって、呟くように言った台詞は聞き逃さなかった。


「ふふ。」


私は上機嫌でさらにがっしりと渉の体に抱きついた。
抱き心地はあんまりよくないけれど。でも温かくて気持ちいい。


「べたべたくっつくなよ。」


やれやれと言った感じでそう言う。
だけど本気で嫌がっているわけじゃないでしょう?声が笑ってるもん。
ちょっと笑いながら大人しく腕の力を緩めると渉はのそりと起き上がり、すぐ近くに転がっていた白いビニール袋を私に寄越した。


「土産。」
「・・・って、また温泉饅頭?」


悪いか、とじろりと睨む渉に構わず、くすくす笑いながらその袋から箱を取り出す。
いつもの温泉饅頭。
一度渉が買ってきてくれて、「美味しいね。」って言ったら、もうこれしか買ってこないんだから。
まあ、美味しいからいいんだけど。
あれ?でも、これ、ちょっといつもより大きい?
私の考えていることが分かったのか、渉はまたゴロンと横になりながらボソリと言った。


「いつもは9個入りだけど、今日は15個入りだ。」
「え?どうしたの?」
「・・・別に。」
「・・・あ。まさか・・・この前のドタキャンのお詫びとか?」
「・・・・・・。」


当たり。なのか、渉はやや不機嫌そうに目を逸らす。
この前、夜に会う約束をしていたのだが、渉の方が仕事が片付かなくて会えなくなってしまったことがあった。
別にそんなの、仕事なんだから仕方がないと、私は全然気にしていなかったのだけど。


「―――やっす!」
「悪かったなっ。」


そういうところ、ちゃんと覚えてて埋め合わせをするところが渉らしい。
しかも温泉饅頭って・・・。


「あはははははは。」
「笑うなっ。」


やっぱり、全部渉らしいかも。
私は可笑しくて、嬉しくて、思いきり笑ってしまった。


「ごめんごめん。ありがと。」
「・・・・・・。」


むすっとしたまま、そっぽを向いている渉。
ほんとに、すぐ怒るんだから。
私はそのおでこに軽くキス。


「じゃあ、お茶淹れて食べよう?」
「―――おう。」
「このプラス6個は私が食べていいんでしょう?」
「・・・まぁな。」


やっぱり、渉のぜんぶが好き。