absurd 8




「最近、が上手くなって来ちゃってつまんない」

そんな勝手なことを言ってジローくんはネットの向こうでポンポンとボールを地面につく。
後ろでは優雅にベンチに腰かけてジュースを飲んでいる跡部くんの姿。
一体、この跡部くんの家のコートに立つのは何度目だろう。

毎週のように来るのに、跡部くんは嫌な顔を見せたことがない。
ジローくんが私に抱きついたりすると「そう言うことは自分の家でやれ」とは言うけれど。
「何だよ、やきもちー?」ってジローくんが跡部くんに抱きつくと「帰れ」って言うけれど。
でも帰る時は、「次に来る時には――」って、何か次に来るまでの課題を与えるのだ。

私はマイラケットをクルクルと回す。
いつまでもジローくんのを借りているわけにもいかないと思って、数週間前に買った。
服装は学校のジャージだから、色気がないとか何とか言われるけれど、そんなのは聞こえないふり。

「行っくよー、

暢気な口調で、放たれたのは鋭いサーブ。
私は何とかラケットの端でそれをとらえたけれど、その威力にラケットが弾き飛ばされた。

「ジローくん、大人げない!」
「へっへ〜」

私の抗議なんか全く効き目がないらしく、ジローくんは満足そうな笑みを浮かべる。
やられっぱなしなのは悔しい。
何とか反撃する方法はないだろうかと考えを巡らせながらラケットを拾おうと後ろを向くと、ベンチの跡部くんと目が合った。

「本当に、てめーは負けず嫌いだな」
「……放っといて」
「あー!ダメだよ、跡部!のこと好きになっちゃっ」
「なるかよ。悪いが、俺は面食いだ」
「何それ、むかつくー!」
、何でそこでムカつくんだよ!」
「今、自分の彼女が貶されたんだよ?ジローくんも少しは怒ってよ!」
「えー?でも跡部って実際に面食いだし」
「何なの、この男どもはっ!」

流石に跡部くんにボールを投げつける度胸はなかったから、ジローくんに至近距離からサーブを打ち込んだ。
「危ないな〜」って言いながらも、あっさり手で取られたけど。
ジローくんと遊ぶ時は、大体いつもこんな感じで怒ってたり、笑ってたり。
色気のある会話なんて殆どなくて、こんな風に過ごしているうちに、あっと言う間に三ヵ月なんて過ぎてしまった。

「俺はのこと好きだよ〜」
「取って付けたように言わないでよね!」
「ねーねー、は?」
「もーっ、好きだってば!」
「てめーら、明日、東京タワーから飛び降りて来い」

こうやってふざけている内に、不安とか退屈を感じる前に、月日が過ぎるなんてあっという間だ。

「あ、跡部も行きたかった?今度一緒に行こうね〜」
「んなわけねーだろ」
「意地張らなくってもいいのに」

調子にのってそう言う私に、跡部くんが片眉を上げる。
最初は緊張して声も出なかったけど、今ではこんな時に肩を竦めること位は出来る。

「じゃあ、お土産買ってきてあげよう!」
「あ、そうだね。東京タワーの置物とか。タペストリーとか」

ごちゃごちゃ考えず、感じたまんまに。
こうして怒ったり、ふざけたり――笑っていければいいな。

「すっげー、ワクワクして来た!」

楽しそうに笑うジローくん。
嫌そうに顔を顰める跡部くん。
私もジローくんと一緒に笑った。