息 2




火曜と金曜は、ダチに麻雀とか誘われても、何となく気乗りがしない。
大学の駐車場で車に乗り込むときから、もう既にちょっと緊張してた。
その店の前の交差点が近づくとソワソワして落ち着かなくて。
止まって店の中を覗き込んで、そいつの姿を見ると、すっげー嬉しくなった。馬鹿みたいに。

夢見る乙女じゃねぇんだから。
そう思って落ち着こうと思えば思うほど、逆におかしくなっていった。

そいつは、本を読んだり、ノートを開いてたり、何もせず外を眺めてたり。
こっちに気付けってじっと睨むように見ながらも、いざ本当に目が合いそうになると慌てて目を逸らした。

いつもの俺なら、たぶんこうやって見てるだけじゃなくて、さっさと声かけに行ってると思う。
都合よく、そいつはいつも一人だし。すぐ脇のコインパーキングに車止めて。
ナンパして、うまく行けばオトモダチになれたかもしれない。
でも、何故か出来なかった。
何度も思った。思ったけど出来なかった。

こうやって見てるだけなんて性に合わない。
最初はその姿を見れただけで嬉しかったくせに、だんだん、イラついてきた。
そいつは、絶対俺になんか気付かない。
このままじゃ、絶対、始まりもしなきゃ、終わりもしない。
その一歩を踏み出せない自分に、すげぇ苛々して、挙句の果てに、そいつ自身に対してもムカついた。

本なんか読んでねぇで、こっち見ろ。
全然違う方見てるんじゃねぇ。
何で―――何で気付かねぇんだよ?

そうやって理不尽な怒りに爆発寸前だったとき、偶然、そのときがやってきた。

金曜日の夕方。
大学の前期の試験が近くなって、同じクラスのやつにノートを借りることになった。
そいつはノートは今自宅にあるから一度取りに帰るって言い出して、その受け渡し場所を指定してきたのだ。
あの店に。

「―――は?」
「知ってんだろ、この道をまっすぐ行ったところにある店。あそこから家近いんだよ。」
「ならお前んちに取りに行くよ。」
「うち母親とかいて、ウザいんだよね。」

はっきり言って、ウロたえた。
そいつも「何かまずいことでもあんのか?」って聞くくらいに。
何て言うか、心の準備が出来てないって言うか。
ただその店に入るだけなのに、準備もクソもねぇんだけど。

「・・・分かった。じゃあ、1時間後な。」

渋々、みたいな低い声を出しておきながら、俺は気が逸るのを抑えることは出来なかった。