息 9
飯に誘ったのはいい。
一緒に飯食うのはいい。
けど、その間の会話に、すごく、悩んだ。
いつもなら、女の子を飯とかお茶とかに誘ったりしたら、とにかく片っ端から適当に話題見つけて話すから、会話が途切れたり沈黙が怖かったりすることなんてないのに、
彼女の前だと話題を口にする前に、ふと、いろいろと考えてしまった。
しかもそうやって厳選した話も、結局上滑りして続かない。
彼女からも話をしてくれるのに、その返事もまたポンポン出てこなくて。
どうしたんだよ、俺!って、心の中で必死に叫ぶけど、そんなことすればするほど、空回った。
別に、ただの女友達と二人で飯を食うことだって、それなりにある。
そのときと同じようにしようと思っているのに。
「美味しいですね。」
「え?ああ、そう?」
運ばれてきた飯を旨そうに笑いながら食う彼女。
俺は、あんまり、味が分かんなかったけど。
何してるんだろう。
あの史浩さんの彼女で、絶対自分のものにはならなくて、してはいけなくて。
彼女は、たぶん今だって史浩さんのこと考えてる。
自分にケリつけようって思ってたのに―――俺、何してんだ?
「どうかしたんですか?」
「別に・・・。」
何でもない、と俺は飯をかき込む。
情けない。
自分の決心したとおりに行かなくて、すごく、情けないけど、もうどうしたらいいか分からなくなった。
「ケンタさんって、実は結構色々お店とか知ってたりするんですか?」
「・・・何か今の言い方、カチンと来るとこがあったんだけど。」
「え?だって・・・ケンタさんって、あんまりデートとかって積極的じゃなさそう。」
「実はお前、結構失礼なやつだな。」
食後に運ばれてきたコーヒー飲みながら、ごめんなさい、なんて明るく言って笑ってる。
俺もつられて笑いそうになりながらも、ジロリと小さく睨んだ。
「俺はケッコウ、まめなんだよ。店のチェックとか、女の喜びそうな所見つけたりとか。」
「そうなんですか?」
「・・・まあ、殆ど使わねぇけど。」
「それじゃ駄目じゃないですか。」
「るせぇな。」
そいつも大分俺になれてきたのか、本性が出てきたのか、ずいぶんズケズケと言うようになってきた。
ついでに表情からも、緊張が薄らいでくるのが分かる。
その様子を複雑な気分で眺めてた。
どうしたらいいのか、分からない。
「なら、むちゃくちゃ極上スポット見せてやるよ。」
「えっ?」
「どうせ暇なんだろ。」
「でも・・・。」
断られる前に、伝票をつかんで立ち上がる。
普段、あんまりこんなことはしないのに、さっきまでくだらない話をするのも躊躇してたくせに、考える前に動いてた。