息 4




啓介さんは俺にとって憧れのスーパースター。
全部がかっこよくて、理想。
涼介さんは、もう、神様みたいな人で、絶対的に尊敬する人。

その二人と同じくらい、俺は史浩さんに畏敬の念を抱いてた。
他所の峠に行ってバトルの申し入れをするとき、どんなヤバい連中相手でも臆せずに交渉する。
涼介さんや啓介さんとも対等に接して、時には怒ったりすることもある。

そして、何より、史浩さんが俺を拾い上げてくれたんだ。
あの人が、俺をレッドサンズに入れてくれた。
だから、俺があの人を裏切ったりとか、そんなこと出来るわけがない。

息が、詰まりそうだった。

。結構ガキの頃からの付き合いなんだ。」

史浩さんにそう紹介されて、初めて、彼女が俺の方を見た。
今まですぐ近くを何度も通り過ぎながら、一度も向けられなかった視線。
こんなときに、こんな風に向けられるなんて―――。

史浩さんが彼女のいる場所に行ったとき、俺は店を出ようと思った。
クラスのやつは駐車場で待ってればいい。
―――正直、もう講義のノートなんでどうでもよくなっていた。
けど、出口にたどり着くまでに史浩さんに見つかってしまって。声をかけられて知らんぷりするわけには行かない。

彼女、って紹介されたわけじゃないけど、友達かそれ以上かぐらい、いくら俺だって見てれば分かる。
それに友達どうしで毎週毎週待ち合わせなんかしやしない。

「こいつは中村賢太。同じチームのやつ。」
「・・・どうも。」
「はじめまして。」

初めて聞く、透き通った声。初めて見る、笑顔。
鼓動が跳ね上がって、でも、結局自分のものになる可能性のないそれらに絶望して―――吐き気がする。

「あの、俺、ちょっと人と待ち合わせしてるんすよ。・・・また、夜に。」
「あ、ああ。悪かったな、呼び止めて。」

テンションの低い俺をおかしいと思ったのか、史浩さんは訝しげに一瞬眉根を寄せる。
店の入り口の方に目をやると、タイミングよくクラスのやつが現れた。
ちょっとほっとして、史浩さんに「それじゃあ。」と笑って見せた。
俺は惚れっぽくて、いつも馬鹿やってる男で―――それでいい。
たぶん史浩さんは、俺の中にあるこんな感情なんて、想像もしてないだろう。

「あれ?あの子、同じ大学の子じゃねぇ?」
「え?」

入口に立ってたヤツの所に急いで駆け寄ると、そいつは彼女の方をじっと見ながらそう言った。
同じ大学?彼女が?
俺も慌てて後ろを振り返る。

「何度か構内で見たことあるぜ。英語コースの建物の方だったかなぁ。」
「・・・ふぅん。」
「まあ、あっちの方って俺たちにはあんまり用ないもんな。」

あれ、彼氏かなぁ?
そう言いながらまだ彼女と史浩さんの方を見ているやつに、俺は返事をしなかった。