流 1




ああ―――もう一ヶ月だ。

仕事中、机の上のカレンダーに予定を書き込んでいたとき、ふと、思った。
確か、そう。
先月同じように締め処理が片付いた頃にあいつから電話があった。
他愛もない話をして、お互い近況報告をし合って、30分くらいで切った。

あれからもう一ヶ月も経ったんだ。
昔は毎日のように電話していたのに。
寂しいと言うより、そんな長い間声を聞かなくても、触れ合わなくても何とも思わない自分に、少し驚く。
別に目が回るほど忙しかったわけじゃない。
あいつのことを考える時間は十分にあったし、実際、何度か考えた。
でも携帯を手に取るまでには至らなかった。メールを送るのも、億劫だった。

ああ、こうやって終わってくのかな。
そう思うと、何故か笑みが漏れた。
少し、自嘲的ではあったけれど。

半年前、あいつが東京の本社へ異動になった。
所謂栄転ってやつなのか、職場の誰もがおめでとう、とその転勤を祝った。
私も同じように笑っておめでとう、と言っていた。
東京と埼玉。
ここは都心から離れていたから、さすがに通勤は難しかったけど、夜に車で飛ばせば一時間。
別れることは考えなかった。
それはあいつも同じ。

「週末には戻ってくるよ。」
「私もたまにはそっちに行くよ。いろいろ行きたい所もあるし。」

楽しそうに、そんなことを話してた。
実際、週末ごとに私たちは会っていた。電話もほぼ毎日。電話できないときはメール。
転勤前と全然変わらなかった。
何も変わっていないと思っていた。

―――でも、物理的な距離は、やっぱり確かに広がっていたのだ。

毎週会っていたのが二週間に一回になり、月に一回になり。電話も週に一回あればいい方で。
気づいたら、もう一ヶ月で。

あいつで、頭がいっぱいならよかったのに。
あいつのことだけ考えていられればよかったのに。
あいつも、私のことだけを思って生活していればいいのに。
お互いの中で、お互いの占める割合が、どんどん、どんどん、狭められていく。

あいつのことを好きかって聞かれれば、迷うことなく好きだって、すぐに答えられる。
今だって、あいつが好きだ。
だけど、あいつの心が遠ざかっていくのを必死になって止めようとする情熱は、もう、なくて。
自分の心が、あいつから離れていくのを止める努力も、今はもう出来なかった。

そしてまた、一ヶ月が過ぎた。