流 14
「―――賭け、だったんだ。」
フロントガラスの向こうに広がる、白みかけた空をぼんやりと眺めながら、渉さんがポツリと言う。
私も同じように、その空を見ながら、彼の次の言葉を待った。
「俺が、先に好きだって言ったら―――あいつのところに行くなって言ったら、たぶん、お前、俺のところに残ってくれるんだろうなとは、思ってたけど。
それだと、ちょっと違う気がしてさ。」
悪いな、試すような真似して。彼はちょっと気まずそうに小さく笑った。
私も小さく笑って、首を横に振る。
「お前の意思で、残って欲しかったんだ。俺の言葉じゃなくて。」
ちょっと冷や冷やだった。
そう言いながら、ふうとため息をつく。
「ごめんね。」
「何が?・・・謝るなよ。」
「ごめん。」
私は、渉さんの腕を、そっと掴んだ。
その私の手の上に乗せられた彼の手が、温かくて、ほっとする。
この手も、すべて、彼は私のもので。
私のすべても、彼のものだ。
それは、私と、彼の、意思。
「俺だったら、自分が転勤になったら、も一緒に連れて行っちまうかな。」
冗談めかして言い、笑う。
「―――私も、追いかけちゃう・・・かな。」
「ほんとかよ。」
「本当だよ。」
彼の方を見たら、目が、合った。
空が明るくなって、朝陽が彼の顔を照らす。
少し眩しくて、目を瞑る。
触れた唇も―――温かくて、震えた。