流 12




毎週会っていたのが二週間に一回になり、月に一回になり。電話も週に一回あればいい方で。
気づいたら、七ヶ月。
でも、それでも確実に、続いていたのだ。
細く―――すごく細くではあるけれど。

私は何もしなかった。
断ち切る努力も、何もしなくて、すべてが後回しで、逃げているだけ。

渉さんが、好き。
彼と、もっとずっと一緒にいたい。触れ合っていたい。
そう思っていながら、私は、目の前にあいつが現れたとき―――嬉しいと、思ってしまった。

―――何て、いやな女なんだろう。

「お前、俺のこと、もっと責めていいんだよ。」

最後にあいつが言った台詞。

もう一度最後にちゃんと話がしたいと、メールが来て、私はあいつと会った。
少し―――迷ったけれど、でも、私もあんな終わり方じゃなくて、もっと、ちゃんと、話をして謝りたかった。
本当は、それはもっと早くにするべきことだったんだけど、そんなことを今言っても仕方がない。

「俺、うすうすは気づいてたんだけどさ。でも直接会うまでは、たぶんどちらにしろ自分が納得いかないと思ったんだ。」

だから、昨日の夜会いに行ったのは、はっきりさせるためで。
迎えに行ったんじゃないのだと、だから気にすることはないんだと笑う。
まさか相手の男に会うとは思ってなくて、悪いことしたな―――なんて、謝りさえもする。

何で、あいつは、あんなに優しいんだろう。
心変わりを責めてくれればいいのに。そうしたら私だって、憎むことが出来たかもしれない。
心変わりをしたのはあなたのせいだって、あなたが放っておくからだって。
そんなことを考えて、また、人のせいにしようとしている自分に、嫌気がさす。

違う。
心変わりしたのは私。
流れに任せて―――何も、しなかったのは、私なのだ。

次の日の夜、渉さんから電話があった。

「悪いな、こんな夜遅くに呼び出して。」
「ううん・・・私も、ちゃんと会って話が、したかったから。」

以前来たことのある湖の前で、車を止める。
エンジンを止めると、途端に静かになって、落ち着かない。
でも、なかなか話し出すきっかけが掴めなくて、暫く沈黙が流れた。

「・・・あいつ、聞いたか?」
「え?」

最初に沈黙を破ったのは渉さんの方。
少し笑って、話し始める。

「和美のやつ、前の彼氏と元に戻ったんだぜ。」
「・・・そうなの?」
「ああ、昨日いろいろあってさ。」

やっぱり、和美ちゃんは忘れられなかったんだ。
そして、相手の人も、同じように和美ちゃんを忘れることは出来なかったんだ。
じゃあ、年下の男の子は失恋してしまったのだろうか。
会ったことのない子に、少し同情をしたけれど、でも、和美ちゃんが本当に好きな人に気づいて、よかったと、思ってしまった。
ふう、と、小さくため息をつく。

「―――逃げてちゃ、駄目なんだよな。」

渉さんは少し上を向いて、何か言い聞かせるように、そう、ゆっくり言う。
そして、私のほうに向き直って、苦笑いを見せた。

「俺も、逃げてたんだよ。に付き合ってる男がいるって和美から聞いてたのに、なんだか、そのことを聞き出すのが怖かった。」
「―――渉さん・・・。」
「和美に『逃げるな』なんて偉そうに言っておきながら、自分が逃げてちゃ世話ないよな。」

情けない、なんて言いながら、わざと明るく笑う。
違う。逃げてたのは私なのに。
でも声が出なくて、首を横に振るだけ。

「この前は、あの男の前で『好きな人が出来た』って言ってたけど―――でも、、まだあいつのこと好きなんだろ?」

声が、出ない。
何で―――

「お前も、ちゃんと、本当に好きなやつの所に行けよ。」

何で、こうやって、みんな、優しくて―――残酷なんだろう。