流 13




私は渉さんが好きだ。

でも―――確かに、あいつのことだって、好きだった。
今までずっと、ずっと何年も、あいつと一緒に過ごしてきたのだ。
楽しいことも、つらいことも、一緒に経験してきたのだ。
そんな簡単に嫌いになれない。

でも。

優劣じゃない。
そんなんじゃないけど―――でも、そんな一緒に過ごして来たあいつじゃなくて、今は、渉さんと一緒にいたい。
まっすぐに生きる人。
いつも前を見ている人。
私は、そんな彼に、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。

近くに、いるからじゃなくて。
あなたが、最初に言ってくれたからじゃなくて。

「・・・軽蔑、した?」

されて当然かもしれない。
彼はいつも真面目で、曲がったことが嫌いで、そんな彼がこんな中途半端な私に愛想が尽きるのは、無理ないのかもしれない。
それでも。

「あいつとちゃんとしないまま渉さんと―――。」
「軽蔑なんかしてない。それに、はっきりさせなかったのは俺のほうだろ。」
「違う。」

それでも、彼を、好きだと言っては、いけないのだろうか。

彼は優しくて、優しくして、私から離れようとしている。
もう彼は、好きだとは言ってくれないのかもしれない。
でも、私は好き。
離したくない。

もっと、もっと触れていたい―――。

「―――渉さんが、好きなの。」

今まで、自分から強く望むものなんて、たぶん、ほとんどなかった。
渉さんのことだって、最初は、こんなふうに思うなんて、考えても見なかった。
彼の隣りに自分がいることが想像できない。
そんなふうにさえ、思っていたのに、今は、その隣りに、誰よりもその近くに、いたい。

「好きなの。」

本当は泣き叫びたいくらいに。
駄々をこねる子供みたいに。
なりふり構わず、その腕に、しがみつきたいくらいに。

「―――。」

ふわりと、彼の匂いがした。
そして、次の瞬間には、彼の腕に、抱き締められた。

「俺も、が好きだ。」

私も背中に手を回して、必死に、彼を抱き締めた。
離さないように、離れないように。