流 2




職場に、新しく女の子が入ってきた。

さん、面倒見てあげてね。」
「よろしくお願いします。」

緊張した面持ちでペコリと頭を下げる。
目はパッチリとしていて、肩まで伸ばした黒髪の綺麗な女の子だった。
年齢が二十歳と聞いて、ちょっとショックを受けた。

緊張しているのか、最初はやけに大人しかった。
でも黙々と仕事はこなすし、分からないところはちゃんと聞いてくるし、結構気に入った。
この前辞めた子は、無駄口ばかりで全然手の動かない子だった。

一緒にお昼を食べて、遅くなったときは一緒に夕飯を食べて。
よく飲みに行くようにもなった。
その頃には、呼び方が「秋山さん」から「和美ちゃん」に変わっていた。
和美ちゃんも、入社したての頃よりも、だいぶくだけた笑顔を見せるようになっていた。

その日も、帰りが少し遅くなって、一緒に会社の近くのお店に入った。
パスタをフォークにくるくる巻きつけながら、他愛もない世間話。
隣りの部署の課長が実はカツラらしいとか、私の同僚の結婚式の引き出物が自分たちの写真入りの時計だったとか。
笑い話、ときどき愚痴。
和美ちゃんのお兄さんの話も、ちょっとだけ出てきた気がする。
車が好きで、和美ちゃんもよく一緒に峠に行ったと聞いて、ちょっと意外で驚いたりした。
「お兄さん」のことより、むしろ「車」のことに関心が向いていて、あんまりその人のことは気にならなかった。

そのときまでお互いの恋愛話はしたことがなかった。
別に意識的に避けていたわけじゃないけど、無理に聞き出すようなことでもないし。そんな感じだった。

「携帯、鳴ってるんじゃない?」
「―――え?あっ。」

鞄から少しだけ顔を覗かせていた和美ちゃんの携帯が、ぶるぶると震えていた。
私が指差して教えると、慌てて取り出して液を確認する。ちょっとだけ顔が赤くなった気がした。

「すいません、ちょっと・・・いいですか?」
「どうぞ?」

いそいそと、携帯片手に席を外す彼女。
何となく微笑ましくて、頬杖ついてその後姿を見送った。
そう言えば―――結局、私は何日あいつに電話していないんだっけ?
そんなことをふと考えながら、でも結局その日数を数えるのが面倒で、殆ど残っていなかったサワーを飲み干した。

「すいませんでした・・・。」
「ふふ、彼氏?」

恥ずかしそうに顔を少し俯かせて戻ってきた和美ちゃんが可愛くて、私はちょっとからかってみたくなった。軽い気持ちで。
和美ちゃんは更に顔を赤くして、覚束ない手つきで携帯を鞄にしまう。
でも、小さくため息をついたように見えたのは、気のせいだろうか?

「すごく・・・年上なんです・・・。」
「ふぅん?」
「何かすごく大人で・・・たまに分からなくなることがあるんです。」
「いくつなの?」
「27です。」

和美ちゃんと7つの差。私よりも年上だ。
彼氏としては、こんな若い彼女なんて自慢だろうな、なんて単純に思うんだけど。
どうもその彼氏はそう簡単な性格ではないらしい。

「私はただ、一緒にいられればいいのに。」

ビールの入ったコップを両手で包み、ため息を吐く。
一緒にいられればいい。
でも、実はそれが一番難しい。すごく、単純で簡単なことのようなのに。

「・・・まあ、年が同じでもよく分からないことはあるわ。」

あいつは、どう言うつもりだろう。
自然消滅を狙ってるのだろうか。
私はどうするつもりだと思ってるんだろう。連絡をしてこない私を、どう思ってる?

さんは、同い年の人と付き合っているんですか?」
「もう付き合ってるかどうかは、分からないんだけどね。」
「え?」

初めての恋愛話。
お互い、漠然と抱えている不安を吐き出した。