流 6




「今度、二人で会えないか。」

たぶん、それは、私も待ちわびていた台詞だった。
あれから、和美ちゃんは私をよく家に招待してくれるようになって、私も、それをどこか喜んでいた。
そして彼の姿を無意識に探してしまう。

彼を好きなのか―――は、よく分からない。
まだ、彼の隣りにいる自分なんて、うまく想像できない。
でも、彼が家にいて、帰りに送ると言ってくれると、自然と笑みが浮かぶ。
嬉しいと、思う。
この、家までの数十分だけじゃなくて、もっと、もう少し、彼と話がしてみたいと、思う。

だから、別れ際のこの彼の台詞は、私も待ち望んでいたもの。

まだあいつを好きなのか―――も、よく分からない。
この前までは、間違いなく、すぐに、好きだって言えたのに。
今は、よく、分からない。

今、あいつから電話があったら、メールがあったら、気持ちは元に戻るんだろうか。

「悪い・・・俺、あんまり気の利いたところとか知らないんだ。」

車を走らせながら、渉さんは苦笑いしながらそう言った。
日曜の昼。
こんな明るいうちに、彼の顔を見るのは初めてで、彼の車に乗るのも初めてで、ちょっと緊張する。
彼の顔をよく見たいけれど、でもじっと見つめることも出来なくて、結局窓の外を眺めるだけ。

「そんなの、ぜんぜん構いません。こうやって車で走っているだけでも楽しいし。」
「そうか?」

そう言ったのは本心。
初デートのどきどきなんて、本当に久しぶりに味わう。
緊張して、すべてが新鮮で、どんなことでも楽しく感じる。
車の中で聞く音楽の話をしたり、今通り過ぎた人のことを話したり、綺麗な青空の話をしたり。
もちろん、渉さんの車の話も。
彼は本当に車が好きで、この話を始めると止まらない。

「あ、こんな話ばっかりじゃつまらないよな。」

ふと気づいたように、申し訳なさそうな顔をしてそう言うけれど、またすぐに止まらなくなる。
渉さんの彼女になる人って苦労しそう。
そんなことを考えて、ちょっと苦笑い。
でも、そんな苦労を味わってみたい―――と、ふと、思う。
だけど、この車の大きな音に、そんな考えはすぐどこかに追いやられてしまう。

綺麗な湖の見える丘で車を止める。
気持ちいい風。気持ちいい空。

「ああ、どうせならお弁当でも持って来ればよかったなぁ。」
「じゃあ今度は作ってくれよ。」

私の台詞にサラリと彼はそう返したけど、その後目を合わせようとしないのは、照れているの?
今度があるの?
また、連れて来てくれるの?

「うん。そうだね。」

私も、彼の目を見ることが出来なくて、少し俯いた。