流 4




「そこを右折でいいのか?」
「はい。」

ウィンカーを出し、十字路を曲がる。
思ったより丁寧な運転で驚いたけど、やっぱり音は大きかった。
こんな車に乗ったのは初めてで緊張し通し。しかも、初めて会った人の助手席。

和美ちゃんに紹介されて、お互い緊張しながら挨拶を交わして。
「どうぞごゆっくり。」
お兄さんはそう言ってくれたけど、何となく落ち着かなくて私は早々に退散することにした。

「じゃあ、お兄ちゃん送ってあげてよ。」

咄嗟にそう言った和美ちゃんは、何も他意なんかなかったと思う。
もう夜も遅いし、そういう台詞が出てくるのは寧ろ当然。
だけど、私は変に緊張して、体が固まってしまった。お兄さんも驚いたような顔をして和美ちゃんを見る。

「―――え?」
「だ、大丈夫だよ和美ちゃん、すぐそこでタクシー拾えると思うし・・・。」
「だめですよ、もう暗いし。タクシー使うくらいならお兄ちゃん使ってください!」

ねえいいでしょう?そう言って和美ちゃんがお兄さんを見上げる。
お兄さんは嫌がっている―――という感じではなかった。戸惑っている感じ。私と同じように。

車内では何てことない世間話。
他の人とする話と何ら変わらないのに、妙に上滑りしている感じがして、長続きしない。
不意に訪れる沈黙が、怖いような、落ち着かないような。

通りの少ない国道を走り抜ける間、隣りの彼を、盗み見る。
和美ちゃんと、顔のパーツは似ているのに、全体的に与える印象は全然違った。
和美ちゃんは可愛い感じだけど、お兄さんの方は、男っぽくて逞しく見える。
睫は長いけど、目の光の強さの方が印象強くて、ぱっと見分からない。
少し厚めの唇は、和美ちゃんの可愛らしさと違って、男の色気、みたいなものを感じさせる。

「―――どうかした?」
「ううん・・・やっぱり和美ちゃんと似てるなぁって思って・・・。」

じっと見つめていたことが急に恥ずかしくなって、そんな言い訳をしてふいとフロントガラスに視線を移す。

「そうかな・・・昔はよく似てるって言われたけど。」
「昔はお兄さんも可愛かったんでしょうね。」
「昔はってどう言うことだよ?」

お兄さんは私に言い訳する隙を与えず、「まあ、この歳で可愛いって言われても困るけどな。」なんて言って苦笑い。
私はちょっとだけ緊張が解けて、小さく笑う。
彼も続けて笑った。今度は苦笑いじゃなくて、普通に。

「―――さんのことは和美からよく聞いてるよ。」
「私も、お兄さんのことは和美ちゃんからよく聞いてます。」
「あいつ、ろくなこと言ってなさそうだな。」
「そんなことありませんよ、面倒見がよくて、車が好きで、片づけが下手なお兄さんだって。」

緊張は、お互い完全には解けることはなかったけど、それでも、だんだんと会話が自然に出てきて。
楽しかった。
家に着いたとき、もうちょっと―――と思うほどには。