流 11




朝目が覚めても、頭がくらくらする。
会社になんか行きたくない。
だけど、こんなことで行かないわけにはいかないんだ。

昨日の夜のことは、よく覚えていない。
ううん、違う。思い出したくない。

車から降りてきたあいつは、何も言わないで、静かに私を見た。
どういうことだと糾弾するわけでもなくて、その目には侮蔑の色もなくて、ただ、静かに。
私の背後で、車のドアの音がする。
たぶん、渉さんが車から降りてきたんだと思う。
私は怖くて後ろを振り返ることが出来なかった。だから、彼がどんな表情をしていたかは分からない。

エンジンも切られて、遠くで走る車の音しか聞こえない。
私は、やっとここで、言うことが出来た。

「ごめん・・・私、好きな人が出来たの。」

声はやっぱり震えたけれど、何とかあいつの目を見て、言った。
何となく、そうすることが、私のあいつへの、最後の誠意のような気がしたから。
後悔なら嫌と言うほどした。
こうなる前に、何でちゃんと言わなかったんだろう、なんて、あまりに当然で、愚かな後悔。

あいつは、暫くの間黙っていたけど、私から視線を逸らして、小さくため息をついた。

「そっか―――。」
「ごめん。」

頭を下げると、その重力に従って目から何かが落ちる。
だから、もう顔を上げることが出来なくなってしまった。

「ごめん。」

何度も同じ言葉を繰り返すことしか出来ない。
あいつの車が走り去って。
でも、私は顔を上げることが出来なくて。
渉さんの手が私の髪に触れて、涙は止まらなくなってしまって。

「―――ごめんなさい。」

やっぱり、それしか言えなかった。

ベッドから起き上がり、携帯を見る。
メールが一件。
あいつから。