deception 19




「―――じゃあ、俺はこれで帰ります。」

日付が変わるより前に、が史浩のもとにやって来て挨拶した。
今日は早く来ているなと思ったら、2時間もしないうちに帰るなんて珍しい。

「今日は早いんだな。」
「はい、明日の朝、早いんで・・・。」
「おっ、旅行か何かか?」

違います違います、とはパタパタと手を振る。

「久し振りに、ジムカーナの練習会に行くんです。」
「ああ!そうか。そう言えばこっちに来てから、全然ジムカーナの話は聞かないな。」
「ちょうど知り合いに誘われたんで、久しぶりに行こうと思って。練習会ですけど。」

そんな会話をしていると、白のFCが駐車場に入ってきた。
珍しくその後ろに黄色のFDの姿が見えない。
史浩が涼介のもとへと向かうので、もついて行く。

「今日は啓介は一緒じゃないのか?」
「あいつは月曜までのレポートが1本残っているって言うから、家に置いてきた。」

ギリギリまでやらないからな、そう言って、仕方のない奴だという風に肩を竦める。

も今日は早く帰るらしい。」
「何だ、お前もレポートでも残っているのか?」
「いえ・・・俺は、明日ちょっと出かけるんで・・・。」
「ジムカーナの練習会に行くんだってさ。」

史浩が補足すると、涼介は少し首を傾げてを見る。

「あの・・・知り合いに誘われたんで・・・。」

なぜ涼介の前だと、こんなしどろもどろになってしまうのだろう。
その目を見ると、顔も熱くなってくる。
それを知られないように、はちょっとだけ下を向き、涼介の視線を避ける。

「知り合い?」
「はい、ジムカーナ始めてからずっとお世話になってる人で。」
「―――そうか。」

名前を聞こうと思ったけれどやめておいた。
初めての走りを見た時に頭に思い浮かべた男が、再び涼介の頭の中を過る。
これで場所が栃木と来れば、いよいよ怪しいところだが、の口から出てきたのは隣りの県の茨城だった。
―――とはいえ、それ程遠い場所ではない。
群馬からも、栃木からも。

「何時からあるんだ?」
「8時です。8時から夕方の4時まで、みっちり1日。」
「茨城に8時?そりゃ、かなり早起きしなきゃいけないんじゃないか?」

啓介には絶対に無理だな、と史浩は付け足す。
噂の本人は、もしかしたらが明日の朝起きる時間までレポートを書いているかもしれない。

「―――引き止めて悪かったな。気を付けて行って来いよ。」

涼介がそう言って解放すると、は遠慮がちに頭を小さく下げ、自分の車の方へと戻って行った。
慎重すぎるくらいの動きで駐車場を出て行くロードスターを見送りながら、史浩が感心したような、少し呆れたような声で言う。

「朝に夜にと、本当に熱心な奴だなぁ。」
「―――史浩、他の人間にはの明日の予定を教えるなよ?」
「え?何でだ?」

今度は涼介の方が呆れた声を出す。

「昼間に行ってるジムカーナじゃ、あいつは『女』のままなんだぜ?誰かが気まぐれを起こして見に行ったらどうするんだ。」
「気まぐれって・・・そんな、茨城まで自分が走るわけでもないのに、わざわざ行く奴がいるか?」
「そんなことは分からないだろう。」

少なくとも、「そんな」心配をする自分は、見に行く確率が高い。
明日の午後は、涼介に大した用事が入っていなかった。

「・・・まさか、お前が行こうと思ってるのか?」

さすが、付き合いが長いだけはある。
涼介の顔つきを見て、凡そ企んでいることが分かるらしい。

「さあ、気が向いたらな。」

そう言って、そんな風に笑うときは、大概「気が向く」ものだ。
一体、何でそんなに彼女に構うのか。
内心肩を竦めつつ、FCへ乗り込む涼介の後ろ姿を眺めていた。




翌朝、練習会の場所に早めについたがタイヤの交換をしていると、黒のランエボが現れた。
今回を誘った本人―――須藤京一である。

は「お世話になっている」と説明していたが、どちらかと言えば京一の方が一方的に面倒を見ている。
いや、面倒を見る―――と言うほど何かをしているわけでもない。
ただ、一人で黙々と走るを、時々放っておけなくて声をかけるのだ。
ここ最近その姿を見かけず気にかかっていた京一は、練習会にちょうど空きが出たので誘ってみた。
ジムカーナ場ではそこそこ会話をするとは言え、電話をかけるなんて初めてだったので密かに緊張していたのだが、はいつもと変わらず、女にしてはちょっと無愛想な、ぶっきら棒な感じで話し、誘うと「そろそろ行きたいって思ってたんです。」とあっさり答えた。

京一は、の車の横に自分の車を止める。
車から降りると、しゃがみ込んでいたが立ち上がった。

「おはようございます。」
「―――早いな。一番乗りか。」
「何だか久し振りで緊張しちゃって、あんまり眠れなかったんで・・・。」

そんな子供みたいなことを素直に暴露しながらも、照れ隠しに目をそらし、口を怒ったように結ぶ。
久しぶりに見たその彼女らしい表情に、何となくほぅとため息を吐く。
そして何気なくの車を見た。

「―――何だ、これは。」

そこには、の小さな車には不釣り合いな位の大きな―――少なくとも京一には大きく見える―――赤いステッカー。
本当は何と問うまでもない。
声が強張るのを隠せない。
そんな京一の変化に気付きつつも、ちょっと首を傾げるだけで普通に答える。

「えと、実は二か月前位から赤城に通ってるんです。」

予想通りの―――一番聞きたくなかった地名に、京一は思わず眉間を押さえた。



空き時間、京一はの走っている姿を眺める。
明らかに二か月前とは変ってきている走行。
それが誰の影響か分かるだけに京一は素直に感心できない。
京一の近くを通りかかった人間が一体何事かと思うくらいに渋い顔をする。

と休憩時間が重なったとき、あの男の名前を出そうか何度か迷ったが、結局まだ口に出していない。
気になることはいくつかある。
一体どういういきさつで、あのチームに入ることになったか、とか。
少し前から峠にも行き始めたということは本人から聞いていたけれど、その峠は赤城ではなかったはずだ。
―――それにしても、あの男が女のをチームに入れるなんて、少し意外だ。
女の走り屋が駄目だとかそう言うことを言っているわけではなく、ただ涼介はあの容貌だから妙な追っかけ見たいなものも多いと聞く。
そんな自分の近くに女を入れるということは、余計な面倒を増やすことになるだろうに。
―――とか何とか、いろいろと頭の中で考えるが、要は「あの男」に抜けがけをされたような気がして、ちょっと面白くないのだ。

走行を終えて、顔に貼りついた髪の毛を払う
やはり聞いてみるか。
そう思って京一が一歩踏み出したとき―――外から低いエキゾースト音。
京一が「まさか」と振り返ると同時に、もその音の主が誰であるか気づいたのか驚いた顔をして入口の方を見る。
そして現れたのは、二人の予想通りの白い車。

「―――やっぱりな。」

それは俺の台詞だ。
車から降りるなり、京一の姿を見つけて深々とため息をついてそんな台詞を吐く涼介に、心の中で即座に突っ込む。
がパタパタと駆け寄ると、一変して優しそうな微笑み。
今まで見たことのないような涼介の表情に、胸糞悪いものを見た、と京一は顔を顰めた。

「どうしたんですか?びっくりしました。」
「時間が空いたんで、ちょっと見学にな。」

ちょっと見学に、という距離じゃないだろう。
聞こえてきたと涼介の会話に、再び突っ込みを入れることを抑えられない。
本人の登場に、京一は観念したように息を吐き、二人のもとへと近づいて行った。

「―――久しぶりだな、京一。」
「まさかこんな所にお前が現れるとはな。」
「別に見学くらいさせてもらっても構わないだろう?」

その会話を聞いて、はまたビックリした顔をして前にいる二人の顔を交互に見る。

「知り合いなんですか?」
「まあ・・・ちょっとな。」

あまり知り合いであることを認めたくなさそうな二人の様子に首を傾げる

、そろそろ準備しておいた方がいいんじゃないのか。」
「え?あ、そうですね。」

京一の言葉に、は慌てて自分の車に戻る。
ヘルメットを窮屈そうに被ってその車内に乗り込むの様子を二人は会話もなく見守り、車がゆるゆると動きだすとようやく京一の方が口を開いた。

「―――あいつは、お前の所に行ったのか。」
「ああ、まだ二ヶ月くらいだが。」

コースインする
短い直線の後に、くるりとパイロンの周りをターン。
その様子を見ていると、つい、隣りの男のことを忘れて京一は満足そうに笑ってしまう。

「前よりだいぶタイヤを使いきれるようになってきた。」

けれど、ふと隣りを見て、その意地悪い笑みを浮かべている男に、我に返って渋面を作る。

「別にお前のおかげとは言っていない。」
「俺は別に何も言っていないぜ。」

広場にタイヤのスキール音が響く。
青空に、キュルキュルというタイヤの音と、元気なエンジンの音。

「お前は日光でチームを作ったんじゃないのか?まだこっちにも来ているんだな。」
「気分転換みたいなもんだ。最近じゃ知り合いが主催するこういう練習会にちょっと顔を出す程度だ。」

が初めてジムカーナ場に来た時、たまたま車を横に止めていたのが京一で、ゼッケンの貼り方とかに自信のないが声を掛けたのが最初だった。
それ以来、京一の方がポツポツと走りについてアドバイスしたり、たまに良さそうな練習会みたいなものがあると誘ったりしている。
二人ともお喋りな方ではないし、会話の量は少ないのだけれど、京一は結構彼女を気に入っているい、も表面上は分かりづらいが京一を慕っている。

―――しかし、まさか涼介のチームに入るとは。

可愛がってきた娘を、訳の分からない男に持って行かれる父親とはこんな気分なんだろうか。
そんなことを考え、またため息。

「あいつが、お前のチームに入っているとはな・・・。」
「何だ、自分のチームにでも誘うつもりだったのか?でも確かお前の所はワンメイクのチームだったよな。」
「あいつを峠のチームになんか誘わねぇよ。もともと峠そのものに行くことだって反対だったんだ。」

こんな所にも過保護な男が一人。
皆車についていろいろ彼女に仕込みながら、最後は「峠には行くな。」と言う。
ずいぶん勝手な話だと、涼介は内心呆れる。
自分も、ずっと前に彼女と会っていたら、峠に行くことを反対しただろうか。

―――まあ、その可能性は高いな。

ヘルメットを外し、暑そうにパタパタと顔を手で仰ぐを眺めながら、涼介もそんなことを思う。
従妹の緒美が峠を走りたいと言ったら、当然反対するだろう。
いや、峠以前に車を運転させることも出来れば止めさせたい。
それとは、少し違うかもしれないが。

「しかし、よくあいつをチームに入れたな。―――いや、腕がどうこう言うんじゃなくて、女ってのはいろいろ周りが面倒じゃねぇのか。」
「ああ―――あいつは峠では『男』のふりをしているから、そう言う面倒は今のところ、ない。」

正直、チーム内で薄々感付いている人間はかなりいるのではないかと思っている。
特に一軍の人間とは普通に会話しているし、最近はあまり帽子も被っていない。よほど鈍感じゃなければ疑うくらいはしても不思議じゃない。
しかしそれを敢えて暴こうとしないのは、やはり、皆を仲間だと思っているからだろう。
ばれれば「面倒」なことになって、彼女がチームを抜けなければいけなくなるかもしれない。

「男!?どういうことだ?」
「そのままの意味だ。あいつは峠で走る時は男のふりをしている。女と知っているのは、ごく僅かだ。」
「あいつが男!?それは無茶だろう!」

を指差して叫ぶ京一。
そう言うのも分かる。
長袖のシャツを脱いでTシャツ姿の彼女。
タオルで汗を拭う仕草。
車に寄りかかって、他の人間の走行を眺める姿。
どこをどう見ても女で、いくら夜とは言え、男のふりが通るなんて想像もつかないだろう。
―――昼でも疑わなかった男が二人いたが。

女であることを隠そうとしないは、涼介にとっては初めてだった。
こういう彼女をずっと見て来たのかと思うと、少し京一に嫉妬したくなる。

「―――まあ、先入観のなせる技だろう。」
「時間の問題じゃねぇのか。」
「そうだろうな。」

落ち着き払った様子で頷く涼介。
その姿に、京一は苛立ちを覚える。
そうだろう、じゃねぇだろう。
ジロリと睨むと、その視線を遣り過ごすように涼介は小さく肩を竦めた。

「須藤さん、走らないんですか?あと20分くらいで終わっちゃいますよ?」

更に云い募ろうと思っていた京一のもとに、が駆け寄ってくる。
一瞬躊躇いを見せる京一に、今度は涼介の方が促すように言う。

「お前の走りを見るなんて久しぶりだな。」
「―――つくづくムカつく野郎だ。」

舌打ちし、自分の車へと戻る。
一体、涼介は何でそんなに余裕なのか。
彼女のことなどどうでもよい―――と思っているという訳ではないだろう。
車に乗り込むときに視界に入ってきた涼介との姿。
その涼介の穏やかな表情は、とても無関心な人間に向けられたものとは思えない。
―――それはそれで、何となく―――引っ掛かるが。

「―――その辺はもう、あまり心配はしていないんだ。」
「え?」
「いや、何でもない。」

フラッグが振られ、京一がコースに入る。
相変わらず無駄のない、堅実な走り。
その外見からは意外なくらい、保守的で、大人で―――嫌なヤツ。
コースとパドックを隔てるコンクリートの低い壁に身を乗り出し、京一の車を食い入るように見つめる
その動きを一瞬でも見逃すまいとするかのような視線。
たぶん、今までもずっとこんなふうに京一の走行を見ていたのだろう。
そして自分の運転にそれを取り入れようとして来たに違いない。
あの田中の走りよりも、京一の方を。

―――自分は、こんなに独占欲の強い人間だったのだろうか。
彼女の目を手で蔽い隠したい衝動を抑え、涼介はその隣りに立つ。

「わたし・・・じゃない、俺、最初は、須藤さんみたいに走れるようになりたいって、思ったんです。」

視線は京一の車を追ったまま、が言う。
普段は自分のことを「私」というのかと、涼介は変な所に気を止めてしまう。
今日は、いつも感じるような「殻」のようなものが薄らいでいる。
普段もそんな男になり切れているとは思っていなかったが、それでもやはり本来の彼女の姿とは少し違っているのだろう。

「俺、全然素人だから走りのこととか、今でもよく分かってませんけど、こう言う所に来始めた時なんて今より更にサッパリで。でも、なんか、須藤さんの走りはすごいなぁって、感動しちゃって。」

その当時のことを思い出しているのか、心なしかの顔が少し赤い。
―――こう言うときの俺は、あまり忍耐強くない。
その自覚はある。
笑顔は辛うじて貼りつかせたままだが、どことなく不穏な空気が涼介の周りを漂い始める。
が自分のバリアを弱めているのと同じくらいは、自分もをいつもとは違うように扱っていいのだろうか?

「―――今もか?」
「え?」
「今も、あいつみたいに走りたいって思っているのか?」
「それは―――走れればいいって思ってますけど・・・。」
「けど?」

涼介がと目線の高さを合わせるように身を屈める。
は急に近くなった涼介の目がちゃんと見れなくて、コースの方に視線を向ける。
けれど、もう京一の車を追うことが出来ない。

「・・・他に、目標があるんです。」
「目標?」
「内容はちょっと言えませんけど・・・。」
「何だよ、人には言えないようなことなのか?俺にも?」

京一の走行が終わり、パドックへと戻ってくる。
覗き込む涼介から逃れるように、その車を目で追おうとする。
でも、それは無駄な努力なのだとすぐに悟り、俯いた。

「あの―――どうしても言わなきゃだめですか。」
「そんな恥ずかしいことなのか?」
「・・・恥ずかしいです。」
「それは、ますます聞きたくなったな。」

久しぶりに見た、意地悪そうな微笑。
そうだ、この人はこう言う人だった。
はそんなことを思い、唇を噛んで涼介を見上げる。
覚悟を決めて口を開きかけた時―――タイミングよく天の声、もとい、京一の声。

「―――おい、もう片付けするぞ。」
「あ、はい!」

助かったとばかりに、はコースの中へと駆けて行く。
あからさまにほっとしていた彼女に、そこまで恥ずかしがる目標とは一体何なんだ?と涼介は不審そうに眼を細めた。
そんな涼介にも京一の声が飛ぶ。

「おい、涼介。お前も突っ立ってないで手伝え。どうせいつもパソコンに向かってばかりで運動不足だろう。少しは働いて体動かした方がいいんじゃないか。」

その発言に多少むっとしたような顔をしながらも、涼介も素直にコースの中へ入り、近くにあった赤いパイロンを二つ三つと取って運び、回収に通りかかった軽自動車の荷台に放り投げた。
近くにいたの手からもそれらを取り上げる。

「ありがとうございます。」
「あいつは人使いが荒いな。」

そう言いながらも、片っ端からパイロンを手際よく重ねてはトラックに積み上げる。
はその様子を間近で見て、こんな風に動いている涼介さんを見るのは初めてだな―――などと変なことに感動してしまう。
普段何もしないという訳ではないけれど、こう言う雑用みたいなことは周りの人間が先に片付けてしまうから、涼介自らが動くことは少ない。

「おい、涼介。向こうにあるヤツも頼む。」

涼介に向かって数十メートル先に残っているパイロンを指差し、京一も反対方向へ走る。
何で俺が―――と思う間もなく、隣りにいたが「俺が行ってきます」と言って走りだしたので、涼介も後を追った。



、どこかで飯でも食っていくか。」

最後の1本を片付け終え、京一がいつもの癖でそう言って後ろを振り返る。
大体決まって練習会の後は、二人で帰り道の適当な店に寄って行った。
しかし、京一の後ろにいたのは、暑そうにジャケットを脱いでいる涼介。は遥か彼方で一人ポテポテと歩いている。
心の中でつい舌打ちが出てしまった。

「じゃあ、俺もごちそうになるかな。」
「誰も奢るとは言ってねぇ。」
「労働の正当な報酬だと思うが。」
「パイロン2つ3つ運んだくらいで労働とか言うなっ。大体、お前は誘ってねぇ!」
「何だ、と二人で行きたいのか?」

いやらしいな、とでも言いたげな涼介の意地悪い目つき。
飯を食いに行くことの、どこがいやらしいんだ!と心の中で叫ぶ。
大体、そんなことを言う奴の方が下心があるもんなんじゃねぇのか。

「―――涼介、俺はぜってぇ認めねーからな。」
「別にお前に認めて欲しいなんて思っちゃいない。」

しれっと答える涼介。
「本気か?」と京一は聞き返すが、今度は「何のことだ」などと、すっ惚ける。

「どう見ても、お前のタイプじゃねえんじゃねーのか。」
「お前のタイプでもないだろう。」
「別に俺はそんな風にあいつを見てねぇ!」
「そんな風ってどんな風だ?」
「・・・本当にお前はムカつく奴だな。」
「そう言う所は気が合うな。」

こんな場所に不似合いな、わざとらしいくらいの優美な微笑み。

「―――お前はぜってぇに潰してやる。」
「それは楽しみだ。」
「いつかリベンジに行くから待っていろ。」

それまでは、預けておいてやる。

その台詞は声に出さず、代わりにジロリと睨みつけた。