deception 21




の一軍昇格と、ケンタの彼女ゲットを祝って、カンパ〜イ。」
「何で、俺は昇格祝いじゃないんスかっ!」
「かんぱーい!」
「おめでとう、ケンタ!」
「大事にしろよ!」

飲みが始まる前にケンタがつい、彼女が出来たことを喋ってしまったら直前に飲み会の趣旨が変更になってしまった。
誰かに言いたくて仕方なかったというのは確かだけれど、こんな形で一気にチームのメンバーほぼ全員に知れ渡ってしまうとは。

「彼女いない歴20年に終止符が打たれたのか?」
「違うっスよ!勝手に20年にしないで下さいっ!」
「今度紹介しろよー。」
「何なら、今から呼んじゃえば?」
「ヤですよっ!!」

今日の肴はケンタに決定したらしい。
皆口ぐちにケンタに祝いの言葉を述べる。

「いーなー。彼女。」

も便乗してボソリと言ったら、ケンタに親の敵のような目で睨まれた。
すごすごと引き下がるに、啓介が意味深な笑みを向ける。

「へー、お前も欲しいんだ、『彼女』。」
「・・・別に欲しくないですけど。青春って感じでいいじゃないですか。」
「ジュース飲みながら年寄りみてぇなこと言ってんなよ。」

啓介は短くなった煙草を手元にあった灰皿に押し付け、グラスに残っていたビールを飲み干す。
そしてその空になったグラスと、近くにあったビールの瓶を掴んで立ち上がった。

「ケンタァ、まさか俺の酒が飲めねぇなんて言わねーよな?」

誰かに注がれたばかりのケンタのビールを開けさせ、間を空けずそこに並々と注ぐ。
もちろん自分のグラスにも注がせて、一足先にそれを空にした。
ついさっきまで傍観者のように静かに飲んでいたと思ったら、今はもうこの宴会の中心になっている。
そしてそれを皆が待っていたような空気。

「―――ケンタ、まだ始まって30分くらいしか経ってないのに、もうかなりベロベロじゃないか?」
「啓介のペースに巻き込まれたら、ひとたまりもないな。」

の向かいに座っていた涼介と史浩が、やれやれと肩を竦めている。
最初の一杯はビールだったけれど、すぐに日本酒に切り替えた二人も、もうすでに結構な量を飲んでいるように見える。
あまり顔色は変っていないが。
がそんな二人をじっと見ていると、史浩が視線に気づいて徳利を持ち上げた。

「なんだ?も日本酒飲みたいのか?」
「えっ!や、違います!」
「飲み過ぎても、ちゃんと家まで送ってやるから安心しろ。」

そう言って涼介までお猪口をの前に置く。
それに史浩が注いでいると、仕事で遅れてきた松本が入ってきた。
保護者の登場に一瞬徳利を持つ手が止まるが、もうすでにの前の小さな器には透明な液体が満たされている。

「駆けつけ三杯だな!」
「勘弁して下さいよ、啓介さん。」

すぐに啓介に捕まって、グラスを渡される松本。
そう言って苦笑いしながらも、注がれたビールを一気に飲み干す。
そして奥にいるたちを見つけ、その隣りのスペースに腰をおろした。
ふと目に止まった、の目の前の日本酒。
違う違うとは首をブルブル横に振ったけれど効果なく、松本に冷ややかな視線を向けられる。
それに気づいた史浩が冗談めかして笑いながらフォロー。

「ごめんごめん、俺が悪ふざけしてちょっと注いだだけなんだ。」
「こいつ、ホントに酒弱いんで、日本酒なんかシャレになりませんよ。」
「―――と言うことは、松本は酒を飲んだを知ってるんだな。どんな風になるんだ?」

からお猪口を取り上げる松本が、その涼介の質問にその時のことを思い出したのか、珍しく視線を泳がせた。
僅かに顔が赤く見えるのは、まさか数杯のお酒のせいではないだろう。
涼介と史浩は訝しげな目をする。
話題の中心となっている本人のは、その時の記憶はないのかキョトンとしている。

「何て言うか・・・ガキになりますよ。」

ガキ・・・ねぇ。
二人がそれぞれに「ガキ」なを想像する。
「今でも十分子供みたいだけど・・・」とつい口から出てしまった史浩の言葉を耳聡く聞きつけ、は抗議の目で史浩を見た。




「主役のクセに端っこでオレンジジュースばっかり飲んでんじゃねーぞ!」と事あるごとにお酒を飲ませようとする啓介から何とか逃れて、宴会も終盤に差し掛かる。
席を立ち、トイレに向かうと、先に席を外していた涼介がちょうど戻って来るところだった。
ペコリと頭を下げてその前を通り過ぎようとする。
けれど涼介がその腕を掴んだ。

「―――おい、男子トイレはここだぜ。」
「え?あっ・・・。」

無意識に奥の女子トイレに行こうとしてしまった。
普段は気を付けているつもりだったけれど、いつもと違う場所で調子がくるってしまったのか。
こう言うところが駄目なんだよな・・・とはちょっと自己嫌悪。
そんな彼女の頭を、涼介は宥めるようにポンポンと撫でた。

「今、誰もいないから。」
「はい・・・ありがとうございます。」

トイレ入り口のドアを開ける。
何だか、涼介の前でそこに入るのは妙に恥ずかしい。
窺うように後ろを振り返ると、涼介はどうした?と首を傾げる。

「出てくるまでここで待っててやろうか?」
「いっ、いいです!大丈夫ですっ。戻ってて下さいっ!」

バタンッ。
勢いよくドアを閉め、はぁと息を吐いた。

誰も来ないうちに・・・と手早く用を済ませ、急いで出ようとする。
すると今度はドアの入口に啓介が立ちふさがった。
な、何でこの人たちとは、こんな会いたくないところで会っちゃうんだ・・・。
心の中で嘆きつつ、はその脇を抜けようとした。
けれど、啓介がそれを阻む。

「ちゃんと男の方に入ってんだ。」
「・・・まあ、一応・・・。」

さっき涼介に女子トイレに入ろうとした所を止められた話はしない。

「お前、この後どうすんの?」
「帰りますよ。明日はバイトもあるし。」
「うわ、つまんねー!酒は全然飲んでねーし!」
「しょうがないじゃないですか、未成年なんですから。」
「そんでアニキと帰るんだ?やらしー。」
「何がやらしいんですかっ!」

にやにやと笑う啓介は、顔色は全然変わっていない。
まったくお酒を飲んでいないの方が、顔が赤い。
啓介がの耳元に口を寄せる。

「アニキも男だからなー。酔ったらどうなるか分かんないぜ?」
「―――どうにもなりませんよ。」

その台詞よりも、耳元に響く声に、はますます赤くなる。
冷静を装って睨んで言い返すけれど、迫力がない。
そんなを見て、啓介は更に可笑しそうにくすくすと笑った。

「じゃあ、賭ける?」
「もう賭けなんかしません!」

ここ数カ月、その賭けでどれだけ大変な目に遭って来たか。
―――もちろん、それが「災難」ばかりだったとは言えないのだけれど。
それを知っていながら啓介もからかう。
「ちぇ、残念」とボソリ言いながら、トイレのドアを押した。

「ま、俺は今日家に帰んないと思うから。ごゆっくり。」
「別に啓介さんの家に行きませんよっ。」

啓介にキッパリそう否定したのに、結局、の車の助手席には涼介が乗っている。
駅まで送ってくれと言う涼介の頼みを断る理由は特にない。
そして、駅まで送っても自宅まで送っても距離的にそんなに変わらないのなら、「家まで送りましょうか?」と聞くのも自然だろう。
そんな風に自分で自分に言い訳しながら、涼介の家に向かっていた。

「―――涼介さん、結構飲んでたような気がするんですけど、見た目全然変わりませんね。」
「そうか?」
「史浩さんは真赤でしたけど。」

見た目も変わらないし、喋り方も何もかも変わらない。
居酒屋で染み付いてしまった煙草とお酒の匂いが、かろうじて飲み会の帰りであることを告げる。

「それなりに酔ってるけどな。は全然飲めなくてつまらなかったんじゃないか?」
「そんなことないです。楽しかったですよ、みんな普段とちょっと違って。」

車が住宅街へと入って行く。
もうこの道はすっかり慣れてしまった。
恐る恐る走りながら「高橋」の表札を探していたのが、ほんの三ヵ月程前だなんて信じられない。
は大きな門の前で車を止めた。

、家に寄っていかないか?」
「えっ!?」

涼介の申し出に、自分でもビックリするような素っ頓狂な声を上げてしまった。
啓介さんが変なことを言うからだ、と帰りに意地悪い笑いをしていた男の顔を思い出す。

「まだそんな遅い時間じゃないし、コーヒーくらい飲んで行けるだろう?」
「え、えーと・・・。」
「先週末、親父たちが出張土産って言ってお菓子を買って来たんだが、俺も啓介も甘いものはそんなに食べないし、全然なくならないんだ。」

普段と変わらない口調でそう言い、普段と変わらない、柔らかい笑みを浮かべる涼介。
確かにまだ10時過ぎで、走り屋の自分たちにとっては遅い時間ではない。

―――けど、女が男の人の家にお邪魔する時間じゃないよな。
―――って、何今さら「女」なんて意識してるんだろう。
第一、涼介さんがそんなこと、考えてるわけない。
・・・そんなことって何だ?

「どうした?」
「えっ!あ、いえ・・・っ」

ぐるぐる頭の中で考えを巡らせているを見て、涼介は首を傾げる。
自分の方が、変なこと考えているみたいだ。
何、期待してんだ。

―――期待!?

「えっ・・・と、やっぱ、今日は帰ろう・・・かと・・・。」
「・・・そうか?じゃあ、お菓子だけでも持って帰らないか。今取ってくるから。」
「い、いえ、そんな・・・。」
は甘いもの嫌いだったか?」
「そんなことないです。」

じゃあ待ってろ。
そう言って涼介が車から出ようとする。
その背中を見て、は半ば反射的に「やっぱり、お邪魔します!」と言ってしまった。



はカップに湯を注ぎ、コーヒーメーカーを用意する。
豆を挽くのはいつもは涼介の役目だが、着替えに部屋へ戻っている彼の代わりにが挑戦する。
微妙な挽き加減と言うのが、よく分からない。
いつもより少し荒い気がする。
フィルターに移した豆を覗き込みながら、は唸る。

「―――悪いな。全部やってくれたのか?」

振り返ると、長袖のシャツに袖を通しながら涼介がキッチンに入ってきた。

「あの、勝手に淹れちゃいました。」

「もう勝手知ったる、だな」とクスクス笑いながら入れたばかりのコーヒーを口に運ぶ涼介。
思わず「すみません」と縮こまるを見て、「別に謝ることじゃないだろ」とまた可笑しそうに笑った。

「―――旨いよ。」
「豆がいいんです。」

照れ隠しとか謙遜じゃなくて、実際この家にあるコーヒー豆は美味しいと思う。
流石にでもインスタントと挽いた豆で淹れたコーヒーの違い位は今までだって分かったが、それ以上の違いはよく分からなかった。
同じ茶色い液体が、コーヒー豆や淹れ方で、こんなに味が違うものなのかと、高橋家でそれを飲んで初めて知った。

涼介が棚から薄い小さな箱を取り出す。
蓋に印刷されているアルファベットは、どうやら英語ではなさそうだ。

「―――それがお土産ですか?」
「ああ、オランダだったかな。普段はこんなお菓子なんて買ってこないんだが、ホテルで出されて美味しかったからと言ってお袋が買って来たらしい。」
「そんなものを俺が食べちゃっていいんですか?」
「もう一週間手つかずで、しかもこれ、あと4箱あるんだぜ?」

涼介は苦笑いしながら、棚を大きく開いて残りの箱を見せた。
確かに、そこには同じ箱が重ねて置かれている。

「気に入ったものを見つけると見境なく買って来る癖があるんだ。・・・こんな小さな箱5つでよかったよ。」

先ほど出した箱を開けると、色とりどりのアルミに包まれた小さなチョコレート。
そのうちの一つをの手に載せる。
涼介がもう一つを取り出し、包みを開くのを見て、もアルミをはがす。
恐る恐る口に入れて噛むと、洋酒の味と香りが一瞬にして口の中に広がった。

「これ・・・ウィスキーボンボンですか?」
「グランマルニエって小さく書いてあるな。もしかして、嫌いだったか?」
「いえ、そうじゃないですけど・・・結構、強いですね。」

涼介がの手元から包みを取り、そこに付いていた小さな紙に書かれていた洋酒の名前を読む。
今までにが食べたことのあるウィスキーボンボンは、ほんのりお酒のような味がするだけで甘いだけのものが多かった気がするが、これは本当にお酒の味がする。
そこが涼介たちの母親が気に入った理由だったのだろうか。

「まあ、少し強めのような気もするが・・・。そう言えばは酒が弱いって言ってたな。」
「さすがにチョコレートのお酒くらいなら大丈夫です。・・・たぶん。」
「そうか。それはちょっと残念だな。」
「えっ?」
「いや、ガキになるって言うのを見てみたいと思ってさ。よかったら本物のグランマルニエもあるぜ?」
「そんなの飲んじゃったら、飲酒運転で帰れなくなっちゃいますよ。」
「帰らなきゃいいじゃないか。」

さらりと涼介はそう言って、またコーヒーを飲む。
そして動きの止まったを見て、一体どうしたんだ?と無邪気とも言えるような表情で首を傾げる。

「何ならワインもあるが。」
「・・・涼介さんでもそんな冗談言うんですね。」

平静を装って、は笑う。
そんな彼女を見て、涼介も笑う。でも、口の端だけ。

「啓介が誘えば、普通に飲みそうじゃないか。」
「そんなこと、ないです。」
「そうか?でも、啓介が一緒にビデオ見ようとか言って誘っても、きっとあんなにうろたえないよな。」
「そんなこと・・・」

さっきうろたえてしまった原因は、その啓介にあるのだが。
啓介があんなことを言わなければ―――
―――いや、言わなかったら何も意識せず素直に家に上がったのだろうか?
そう言えば、涼介に誘われたのは、これが初めてだった気がする。

この人はちょっと苦手だ。
前からそんなことを思ったけれど、それは、何でだろう?

「―――啓介の誘いには躊躇いないのに、俺の誘いは一度は断るんだな。」
「それは・・・」

じっと自分を見つめて来る涼介の顔を見ることが出来ず、は俯く。
答えに詰まって顔が熱くなってくる。
そうか―――だから「苦手」なんだ。
うまく話せなくなって、心臓が煩くなって、自分が自分じゃなくなるような感覚。
でも―――引き寄せられる。

やっぱりウィスキーボンボン一つで酔ってしまったんだろうか。
は頭がクラクラしてくる。

「涼介さん・・・やっぱり、ちょっと変です。」
「そうかもな。酔ってるかもしれない。だから普段思っていて口に出来なかったことを聞けてるんだ。」
「・・・ふだん?」
「お前は啓介にはあんなに懐いているのに、俺とは一定の距離を置いてるだろう?」
「それは、だって・・・涼介さんと啓介さんは違います・・・。」
「どうして?」
「どうしてって・・・。」

二人が違うことは当然じゃないのか。
そんなことは涼介だって分かっているはずで、「どうして」なんて問いは無意味なのに。
どうしたらいいのか分からなくなって、逃げ出したくなる。
そして実際に逃げ出そうとした。

「あの、俺、もう帰ります。」

踵を返そうとする
涼介がそんな彼女の腕を掴んで、ぐいと自分の方へ引き、逃げ出すことを許さない。
決してそれ程強い力ではなかったのだが、はよろけて、そのまま涼介の腕の中に入り込んでしまった。
赤城で同じように抱きしめられた時のことを思い出す。
あの時はその鼓動の音に安堵をおぼえたのに、今はまったく逆にどんどん息が苦しくなっていく。

「確かに多少酔ってるが―――こうやってを家に誘うことは、酔う前から考えていたんだ。」

耳元に聞こえる低い声。
涼介に触れている体の部分全てから響いて来る。

が車で来たら送ってくれと頼もう、もし違ったらタクシーで家まで送ろう。その時はどうやって家に入れてもらおうか―――そんなことをあの店に行く前に考えていた。」
「そんな・・・変なこと、言わないで下さい・・・。」
「変か?弟に嫉妬して、お前を今すぐにでも自分のものにしたいと思っている俺は。」

そう言って、を抱きしめる腕の力を強める。
涼介さんがこんなことを言うのはお酒のせいだ―――とは必死に自分を言い聞かせる。
けれど、もし本当にお酒のせいだったとしても、こんな台詞を涼介が自分に言うことが信じられなくて、頭がクラクラして、何も考えられなくなってくる。

「こうして家に誘った後は、どんな理由を付けて帰さないようにしようか、どうやって自分の部屋に誘おうか、そんなことばかり考えてる。」
「そんなこと・・・」
「こんなことばかり考えてる俺は―――嫌いか?」

その声に甘さを帯びてきて、何か、麻酔か麻薬のようにを痺れさせる。
―――嫌い?
この人を嫌いになるなんて、そんなこと、信じられない。
は涼介のシャツを掴み、その腕の中でフルフルと小さく首を横に振る。

「―――。」

自分の名前を呼ばれ、は思わずビクリとする。
本当に、この人の声には魔力でもあるんじゃないだろうか。
自分を覆っていた何か殻のようなものが、その声一つでポロポロと剥がされていくような気がする。
きっと今の自分は変な顔をしている。
そう思って、涼介の腕の力が緩められても、そこから離れて顔を上げることが出来ない。
耳から頬へと指で撫でられ、涼介の顔が近付く。

お酒と、コロンの混ざった香り。

目元に軽く唇が触れ、口の端にもキスをされる。
そのゆっくりとした動きがの感覚を敏感にするのだろうか、ゾクリと鳥肌が立つような感覚。
けれど、不快感ではなくて寧ろその逆のような―――。

殆ど無意識に、俯いていた顔をソロソロと上げる。
頭は何も考えられなくなってくるけれど、身体は何かを期待しているのが、自身にもぼんやりと分かる。
唇を舐められて、促されるように、は緊張していたその口元の力を緩めた。

の唇に触れる様子は、相手を窺うようで、優柔不断にさえ思えて、「ハッタリが8割だ」と本人は苦笑して言ってはいるが、普段の自信に満ちた涼介の態度からは想像も出来ない。
は思わず体を震わせて、涼介の腕を掴む。
彼女の唇の柔らかな感触とその反応に抑えがきかなくなったのか、涼介はさっきまでとは打って変わって、強引なほどの勢いでその唇を割って舌を差し入れた。

「―――っふ」

歯の裏側をなぞられて思わず声を漏らし、崩れ落ちてしまいそうで必死に涼介の腕やシャツを掴み直そうとする。
自分はこんなに感じやすかったんだろうか?
怖くなって思わず逃げ出そうとする。
けれどその前に、涼介に腰に手を回されて身動きが取れなくなった。

受け入れるだけで必死だのに、気が付くとの方から舌を絡めている。
唇を放す涼介を名残惜しそうに見つめてしまう。
そんなの様子が愛しくて、涼介は髪を撫で、額に唇を寄せる。

「―――。俺の部屋に行こうか。」

掠れたような、囁くようなその涼介の声に、は小さく頷いた。