deception 28




涼介が視線に気づいて横を向くと、がベッドの上で毛布から顔だけを出して自分を見ていた。

「おはよう。」

本を閉じて微笑むと、は暫く涼介の顔をじっと見て、頭から毛布に包まった。
その目は明らかに涼介を責めている。
涼介は、ふぅとため息をつきながらも笑みを深くし立ち上がる。

は毛布の中で息を潜める。
ギシ、とベッドが軋む。

?」

自分の名を呼ぶ声がすぐ耳元で聞こえてきて、涼介が身を屈ませているのが分かる。
は返事をせず、毛布に潜ったまま寝返りを打ち、涼介に背中を向けた。

「怒ってるのか?」

当たり前だ。
は無言のままそれを肯定するように背中を丸めた。
その様子は、外から見ると芋虫か何かのようである。
は真面目に怒っているのかもしれないが、そんな彼女を見て笑ってしまうのは仕方のないことだろう。
涼介は笑いを堪えながら毛布を剥がそうとする。

「そんなに怒るなよ。―――愛してるよ。」
「そんな言葉に騙されません・・・!」

しかし涼介の試みは失敗し、芋虫は更に丸くなる。

「騙されるとは・・・ひどいな。」
「酷いのは涼介さんです!」

嫌だって何度も言ったのに・・・。
涼介が毛布越しに頭を撫でるけれど、は顔を出さない。

「悪かったよ。」
「―――謝りながら、お尻触らないで下さい!」

堪え切れずにガバッと起き上がり、叫ぶ
「お尻だったか?」と、すっとぼけて肩を竦めニッコリ笑う涼介。
この人は全然悪いと思っていないに違いない。
しれっと嘘もつける悪人なのだから。

「―――もう、しないって約束して下さい。」
「何を?」
「な、何をって・・・だから、昨日みたいなことですっ。」
「昨日みたいなことって何だ?」

わざとらしく首を傾げて自分をを見つめる涼介に、は言葉が出ずに口をパクパクさせる。

「だ、だから・・・電気つけたままとか・・・、その、何回も・・・とか・・・っ!」
「何回も何をするんだ?」
「・・・本当に、涼介さんってエロオヤジですね!」
「知らなかったか?」
「知ってました!!」

今度は起き上ったまま頭まで毛布を被る。
それを無理やり剥がそうとしたら手を噛まれそうになった。

「お前が嫉妬させるのが悪いんだろ。」
「やっぱり反省してないんじゃないですか・・・!」
「じゃあお前は他の男と会うのを止めるか?」
「変な言い方やめて下さいっ。松本さんは兄みたなものだし、クラスの子に会わないなんて無理じゃないですか。」
「なら、仕方ないな。俺ももうやらないとは約束できない。」
「さっき悪かったって言ったのに・・・っ!」
「悪かったとは言ったけど、もうしないとは言ってないぜ?」

そんなことをサラリと言う涼介の笑みは、悪魔の微笑み以外の何物でもない。
そうだ。
最初に会ったときからこんな感じの人だった。
なのに―――なのに、何で好きになっちゃったんだろう。

でもここで絆されちゃいけない。
はキッと睨む。

「涼介さんだって、他の女の人と会うでしょう?」
「そうだな。必要に迫られて会うことはある。その時は同じことをしていいぜ?」

同じこと?
・・・って、なんか、全然自分にメリットが感じられない・・・。
分かり切ったことで真剣に悩むに、涼介は笑いを堪え切れない。
本当に、何でこいつはこんなに子供みたいで―――可愛いんだろう。

、そろそろ機嫌直して飯にしよう。お前の手料理が食いたいんだが。」
「・・・・・・。」
「・・・今日は諦めるよ。」

そして涼介は、結局のところ彼女に弱い。
は知っているのだろうか。

「・・・お味噌汁が飲みたいです。」

こんなわがままを涼介が笑いながら聞くのは、に対してだけだと言うことを。

「はいはい、お嬢様。用意しておくからシャワーを浴びておいで。」

苦笑しながらベッドから立ち上がる涼介。
続いて毛布にくるまったままベッドから抜け出す

「・・・だから、お尻触らないで下さい!」

何てことないことのようにのお尻を撫で上げる涼介に体当たり。
よろけた隙にはバスルームへと駆けて行った。